(財)北九州産業学術推進機構(FAIS)カー・エレクトロニクスセンター
(財)北九州産業学術推進機構(通称=FAIS・フェイス)は、北九州市における産学官連携による研究開発等を行うことによって、産業技術の高度化や活力ある地域企業群の創出・育成に寄与することを目的に、北九州学術研究都市に平成13年に設置されました。
カー・エレクトロニクスセンターは平成19年7月に設置され、カーエレクトロニクスに関する人材育成と研究開発支援を行っています。
(財)北九州産業学術推進機構カー・エレクトロニクスセンター センター長 武藤 雅仁氏
聞き手: 北九州市産業経済局誘致課主任 小園 理恵【文中の敬称は省略させていただきます。】
インタビュー
【カーエレ拠点構想】
小園: 武藤さんとカー・エレクトロニクスセンター(以下、カー・エレセンター)の関わりはいつからですか?
武藤: 2007年からです。カー・エレセンター設立と同時にこちらに来ました。
小園: カー・エレセンターは設立からちょうど2周年を迎え、7月31日には記念セミナーが開催されたところですよね。北九州市のカー・エレセンターは日本初と聞いていますが、設立の経緯をご紹介いただけますか?
武藤: 2005年、北九州市が、企業・大学・行政による「北九州市カーエレクトロニクス拠点構想検討委員会」を立ち上げました。1年間の議論の結果、拠点化に向けた推進体制が必要との結論に至り、推進母体として2007年4月にカー・エレクトロニクスセンター準備室を設立しました。
小園: 自動車・部品メーカー等企業サイドにもそうしたニーズはあったのでしょうか?
【カー・エレセンターの設立~自動車の研究開発拠点形成~】
武藤: 当時は全国的に人材不足がしきりに言われていまして、メーカーにもニーズはありました。
また、北部九州地域には、トヨタ・日産・ダイハツ等自動車メーカーが集積し、生産能力150万台と言われていますが、未だ研究開発拠点がありません。北九州市が研究開発拠点の集積を図ろうとしたのはもちろんですが、企業側にとっても工場の近くに研究開発拠点を設置する必要はあると思います。
一般的に、自動車メーカーは、工場が進出すると何年か遅れで現地適合の為の技術部門を作ってきました。今は景気の影響も受けているのでしょうが、九州にも何れ研究開発拠点ができるのは自然なことでしょう。そういった意味で、先ずは、北九州市に受け皿となる研究開発拠点を作る必要がありました。それがカー・エレセンターなのです。
小園: カー・エレセンターの具体的な役割を教えてください。
武藤: 人材育成と産学共同研究です。
先ず、人材育成ですが、人材育成と言うと、すぐに学生や社会人向けの講座のようなものを思い浮かべると思いますが、それは狭義の人材育成だと思います。
ただ、私は敢えて広義の人材育成と呼んでいるんですが、先ずは、企業や行政や大学の先生が自動車開発という分野に慣れ親しむことだと思っています。共同開発に参加することで、自動車関連メーカーとのコミュニケーションを通じて自動車開発の手法を学ぶといったことも立派な人材育成です。こうした機会をできるだけ多く設けて、北九州地域の底上げをしたいですね。
この2年間こうした機会をカー・エレセンターが提供してきたことで、徐々に存在価値を認めていただけるようになりました。
【カー・エレセンターの強み~人材育成と産学共同研究~】
小園: 現在、カー・エレセンターが入居している技術交流センターには企業も入居していますが、カー・エレセンターのこうした役割に魅力を感じているのでしょうか。
武藤: カー・エレセンターには、企業からの出向者がコーディネータとして働いていただいていますが、正に広義の人材育成の一環なんです。皆さん、自動車メーカーとのやり取りを通じて人脈やノウハウを蓄積しています。各企業に戻ってからもこうした経験を是非役立てて欲しいですし、もっと多くの企業の皆さんに活用していただきたいと思っています。
小園: カー・エレセンターでは、平成19~20年度に、経済産業省の補助で、「カーエレクトロニクス設計開発中核人材育成事業」を実施していますね。
武藤: はい、この補助事業では、社会人向け講座を念頭に、6講座のテキストを作成しました。より実践的なテキストを作成し、実証講座も行いました。
平成20~22年度は、文部科学省の「戦略的大学連携支援事業」に指定され、自動車工学を新規講座として追加した合計7講座のテキストは、平成21年4月からスタートした「北九州学術研究都市連携大学院カーエレクトロニクスコース」で活用されています。
小園: 連携大学院については、次回、北九州市立大学の高橋先生に詳しくお聞きする予定です。
それでは、次に、産学共同研究について詳しくお話いただけますか。
武藤: 市や国の補助事業、また民間の資金により、産学官の研究開発が行われています。市の補助事業については、毎年7~11件が採択されています。市内の大学の先生がメンバーに入れば、市外の企業でも参加できます。
企業のニーズと大学のシーズとのマッチングもしますので、関心のある企業の方は、是非ご相談下さい。
小園: 最近は、他地域でもカーエレセンター設立の動きがあるようですが、北九州市の強みは何でしょうか?
武藤: 北九州市の1年遅れで広島に設立されましたが、他地域にもそうした動きがあるようですね。
北部九州地域は自動車メーカーの集積地域と言うだけでなく、九州には半導体工場も多く集積し、生産額は国内の3割を占めます。北九州市がカーエレクトロニクス分野に目を向けたのは当然の流れだったと思います。
次に、北九州市は、1901年の官営八幡製鉄所操業以来、100年以上のものづくりの基盤があります。また、材料メーカーも充実しています。やはり、研究開発→試作→評価といった一連の流れの中で、地場にものづくりの技術が蓄積していることは重要です。
そして、最後に、この学術研究都市には国公立3大学が集積し、200人近い研究者と2,200人の学生がいるということはすごいことだと思います。
小園: 以前、武藤センター長の説明で、カーエレクトロニクスは、「環境対応」の視点から新動力源への取組み、「安全対応」の視点から認知支援・判断支援・操作支援への取組みがあると伺いました。
武藤: 今は、EVなど環境対応が注目を集めていますが、元々カーエレクトロニクスは高齢者や女性を含む誰もが安全に運転出来るための支援技術の開発等から始まっています。現実的に、交通事故の死者も自動車販売台数の増加と反比例に減少しています。
また、高齢者は、視野が狭くなったり首が回りにくくなったり筋力が落ちたりしてきますが、そうした方でも必要な時自由に移動できる手段を残す必要があります。都会では自動車はもういらないといった話も聞かれますが、発展途上国や日本でも地方ではまだまだ必要な移動手段です。
カーエレクトロニクスが取り組むテーマはどんどん広がっています。
【カー・エレセンターの将来】
小園: 今後のカー・エレセンターをどういった方向に持っていきたいと思っていますか?
武藤: 人材育成と産学共同研究については、引き続き進めて行きたいと思います。
ただ、将来的には、カー・エレセンターを車に関する総合的な「頭脳拠点」として形成したいと思っています。自動車産業は、ここ最近の不況で少し元気をなくしていますが、自動車産業のような規模の産業が他に出て来るでしょうか?
先日の記念セミナーで、日産自動車の講師の方が仰っていましたが、日本全体の輸送用機器輸出額は20兆円規模と言われています。日本は、同額規模の食糧と石油を海外から輸入しているんですよ。日本にとっては、自動車産業ががんばり続けるしかないですよね。
そして、最終的に、自動車関連企業のR&D機関に進出してきてほしいですね。先ずは出先機関のような小さな規模から来てもらい、将来は本体が来ることになればいいですね。
小園: 自動車の市場としても発展著しいアジア地域との連携についてはいかがでしょうか。
武藤: 先ず、九州地域の他教育機関からの要請により、テキストの提供等連携を始めたところです。九州各地域とのネットワークを作り、カー・エレセンターがその拠点になればと思っています。
そして、このカー・エレセンターが、東アジアの中核となることを目指しています。海外から北九州に学びに来ていただければ、世界で北九州市のブランド力も上がるでしょう。世界中から優秀な人材が北九州市に学びに来るようになればいいですね。
小園: 本日は、お忙しいところ、どうもありがとうございました。
編集後記
武藤さんは、1歳で門司に来られてから大学時代まで、現在の北九州市で過ごされたそうです。トヨタ自動車に就職したのが38年前、当時九州には自動車産業の芽もなかったそうです。2年前地元に戻って来て、現在の仕事にやりがいを感じていらっしゃるそうです。北九州市でカーエレクトロニクスを学んだ学生が地元に定着できるように期待しています。また、車の頭脳拠点形成に向けて、市も連携して進めて行きたいと思っています。
財団法人北九州産業学術推進機構カー・エレクトロニクスセンター
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