国立大学法人九州工業大学大学院生命体工学研究科 早瀬教授
国立大学法人九州工業大学大学院生命体工学研究科 教授 早瀬 修二
聞き手: 北九州市産業経済局誘致課 主任 小園 理恵【文中の敬称は省略させていただきます。】
学校概要
学部を持たない独立研究科である生命体工学研究科は、生体や脳の持つ優れた機能を工学的に応用することを目的としています。本研究科では、生体の持つ機械的、電気的、物質的機能を対象とする生体機能専攻、脳の持つ情報処理機能を対象とする脳情報専攻からなります。多様な機能をシステム的にとらえ、しかも人類最後のフロンティアと言われる脳を工学的応用の対象にするのは本研究科が初めてです。
本研究科は平成13年4月から、工学系、情報工学系、生物系など多彩な出身分野の学生を受け入れてきました。生命体工学は、生物や脳という視点からのさまざまな工学、情報工学分野だけでなく、心理学、言語学、哲学などの分野とも関連します。この学際性に対応して柔軟な入学者選抜試験を実施し、また入学後は異分野への対応としてイミグラント科目も用意しています。
産学連携の推進に加え、社会人技術者も積極的に受け入れてきました。最先端の産業技術の吸収や社会ニーズの発掘に努め、これを教育研究に生かしたいと考えています。
インタビュー
【色素増感太陽電池の研究を始めたきっかけとその将来性】
小園: 先ず、先生の主な研究内容を教えていただけますか。
早瀬: 有機系の太陽電池を研究しています。有機系太陽電池には色素増感太陽電池と有機薄膜太陽電池の2つがありますが、両者の研究を行っています。これらは進化して将来は同じような次世代太陽電池になるかもしれません。違いを分かりやすく説明すると、色素増感太陽電池は電解液の性質を最大限に利用しているため液体を含む電池ですが、有機薄膜太陽電池は薄膜の性質を最大限に利用しているため、すべて固体でできています。
小園: 早瀬先生は、その中でも色素増感太陽電池の研究で知られています。色素増感太陽電池の研究を始めたきっかけは何でしょうか?
早瀬: 再生可能エネルギーである太陽電池の研究を始めようと思いましたが、以前は有機物を使った太陽電池の効率は、シリコン系太陽電池に比べると今の比較にならないくらい悪かったのですが、その後色素増感太陽電池が発表され、かなり高い効率が出ると発表されました。有機物を使った太陽電池の高効率化が実現すれば太陽電池が安価に手に入るようになり、太陽電池で発電される電力料金が安くなります。ポテンシャルとして高い効率が出る仕組みですし、私は元々有機化学者なので、そういった部分に興味を持って色素増感の研究を始めました。
小園: 色素増感の研究を始めて何年になりますか?
早瀬: 11年になります。
小園: 現在はシリコンを使った太陽電池が全盛ですが、色素増感太陽電池の将来性はどうでしょうか?製品としてはいつ頃出てくるでしょうか?
早瀬: 用途としては室内向けと室外向けが考えられますが、技術的または耐久性から見て、室内向けはそろそろ出て来る頃だと思います。実用的な製品としては、小さな無線装置やセンサーネットワーク、家電製品の二次電池との組み合わせ(充電または交換不要)などが考えられます。
小園: 室内向けは、電池の劣化はないのでしょうか?
早瀬: 有機物でも劣化はありません。また、有機物はシリコンと比べて室内では高い効率を発揮します。というのは、シリコンは弱い光や蛍光灯の光に対しては効率が高くないのですが、有機物は高い効率を持っています。商品として色素増感の特徴を出しやすいので室内向けの商品が多いですが、将来的には各メーカーも室外向けを手がけると思われますし、実際に商品開発もしています。室外向けの商品化には耐久性の試験が必要なので、もう少し時間がかかると思います。ただ、最近は中国・韓国・台湾が実用化に対して意欲的であり、海外から商品が出てくるかもしれません。室内外の区別なく携帯できる太陽電池については、海外ベンチャーから既に発売するという話が出ています。
日本の場合、大企業が手がけていますので動きは多少慎重ではありますが、技術的には世界で最も進んでいますし、日本企業の研究成果は信頼性が高いと思います。これまでは研究者中心でしたが、ここ1~2年は企業との共同研究や展示会への出展などにシフトしています。
【研究の特徴】
小園: 先生の研究内容の特徴を教えてください。
早瀬: 私は、元々化学が専門分野ですので、材料からデバイスまでの一貫的な研究スタイルを採用しています。特に、ナノマテリアルとデバイスを組み合わせる研究手法です。その中でも、環境分野にインパクトを与える研究として、一つは太陽電池、もう一つは再生可能燃料を使用した燃料電池の高効率化に取り組んでいます。太陽電池では、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池の研究を行っていますが、どちらも15~20%の高効率太陽電池を目指すための基礎的な要素研究、実証研究を行っています。
小園: 実証研究後は企業に引き継ぐのでしょうか?
早瀬: そうですね、興味のある企業の方とは是非連携したいと思います。お待ちしています(笑)。
早瀬: 研究内容について、もう少し踏み込んで説明すると、タンデムの新しい形の開発、透明導電膜を使わない太陽電池の開発をしています。透明導電膜を使わないと、プラスチック製やフレキシブル、円筒形の太陽電池、ファイバー型太陽電池などが可能となり、機能的な太陽電池に発展させることができます。
円筒形の太陽電池は、今年ヨーロッパの学会で発表されました。これはシリコンやCIGSのような無機太陽電池で作製されていましたが、私は円筒形色素増感太陽電池を作りたいと思っています。発電効率が安定しているのと軽量化が見込めます。
現在、室外向け太陽電池には丈夫な太陽電池を支えるためのフレームが必要とされますが、円筒型になれば、軽量になり、また風の影響を受けにくくなるため、フレームを軽くすることができると報告されています。フレーム部分の材料、施工費用には設置太陽電池全体の約1/3のコストがかかっていますので、これを圧縮できれば低コスト化につながります。このように、電池だけでなく全工程を見て研究開発を進めています。
小園: 先生は燃料電池も研究されていると伺いました。
早瀬: 水素やメタノールを原料とする燃料電池の開発は企業中心でやっていますので、私は再生エネルギー(エタノール)を使用する燃料電池を研究しています。これはまだ少し先の話ですね。現在は太陽電池の方に労力を取られているので、地道に細々と進めています(笑)。将来は、石化燃料ではなく、草や木などを原料としたエタノールを使いたいと思っています。
【北九州市と九州工業大学について】
小園: 3月3日から東京ビッグサイトで開催される『PV EXPO 2010』に、北九州市は地元の大学・企業と共同出展します。早瀬先生にも参加いただきますが、参加者は有機系の太陽電池関連が多いように感じます。
早瀬: 北九州市は古くから化学工業が立地する工業地帯ということもあり、有機太陽電池の材料を作る企業がいくつかありますね。また、最近は、製鉄に必要な溶射技術を活かして色素増感太陽電池を製造する研究を地元企業と一緒に行っています。
小園: 最後に、九州工業大学のPRをお願いします。九州工業大学は日経グローカルの『全国大学の地域貢献度ランキング』で高い評価(第4位)を得ていましたね。
早瀬: 九工大の良い所は、企業など外部から来た先生が多く、産学連携がスムーズに受け入られる土壌があると思います。ただ、国立大学ということが意外と知られていないようです。地元では非常に有名な大学なのですが・・・。
一般的に、国立大学の多くは教育と基礎研究がメインで、企業との研究に結び付けにくいのですが、九工大は外部との共同研究を積極的に進める方針なので、私にとっては素晴らしい環境です。また、北九州市には工場が多く、大学と地元の中小企業とのマッチングがやりやすいですし、市役所もがんばっていると思います。
小園: 産学連携に積極的な校風が高評価の要因かもしれませんね。地元企業にとっても九州工業大学は身近な存在です。これからも産学連携が地域の産業発展につながるようご支援よろしくお願いします。
本日はどうもありがとうございました。
【あとがき】
3月3日~5日、東京ビッグサイトで開催される「PV EXPO 2010」に、北九州市の産学官が集結します!早瀬研究室からは「透明導電膜を必要としないファイバー型色素増感太陽電池」をご紹介します。
皆さん、是非「北九州パビリオン」に足をお運び下さい!